僕のバイトはおそろしいほど暇である。一人で受付に座り、ほとんどやることがないまま丸8時間そこにいなければならない。そういう仕事だ。椅子は小さなパイプ椅子で、シンクに蓋をしただけの机がある。天板の下に足を入れるスペースがないので、必然的に背中を丸めることになる。そういう仕事だ。
たまに社員からLINEやメールが届くから、スマホとPCを頻繁にチェックしていなければならない。そうなると、僕はネットサーフィンに興じてしまう。本でも読めばいいのだろうが、8時間同じ場所で本を読むのはかなりキツい。映画を4本ぶっ通しで見るののを想像してみてほしい。苦行だ。ネットサーフィンは頭を使わなくていいし、次から次へと好奇心が刺激されるから、無限に続けられる。無限に続けてしまう。だが、もちろん、身体が痛くなってくるし、メンタルもキツくなってくる。帰宅後にぐったりすることがほとんどだ。
そこで、僕は対策を考えた。そうだ、低俗な雑誌を買って読めばいい。読みやすい雑多な記事が並んでいて、ネットサーフィンをしているかのようにページを捲れる。にもかかわらず画面の光を浴びなくていい。紙面が大きい。疲れたらぼーっとできる。実は過去に一度、バイト前に週刊誌を買って行って読んでいた時期があったが、数百円がもったいなく感じて辞めてしまった。いま考えてみれば数百円以上の価値がある。
朝、バイト先の最寄りのコンビニで、雑誌ラックのあるエリアに行く。低俗であればあるほどいいと思っており、「SPA!」「FRIDAY」などを買うつもりだった。もしなければ、(故意に有名人を傷つけるという理由で嫌悪している)「週刊文春」「週刊新潮」あたりを(仕方なく)選ぼうと思っていた(人を傷つけるものでも、その低俗なフォーマット故に僕の心身を救ってしまうのだ。人を傷つける記事が、というのではないにしろ)。
だが、雑誌ラックはかつての品揃えと随分変わっていた。上に挙げた雑誌は一つも置いていなかった。前はたしかにあったのに。その代わり、何種類ものエロ雑誌が置いてある。さすがにお客さんが来るバイトの仕事中にエロ雑誌は読めない。お客さんが来ないタイプのバイトだったならば、買ってみてもいいのだけれど。(そういえば、エロ本って買ったことないな。エロ本やDVDを「集める」あるいは「隠す」という性のあり方は極めて健全だと思う。)結局、僕は当初の予算の倍額を支払って「BRUTUS」を買った。