キムチ?!
学校の近所を散歩して昼食を物色していると、中華屋が魯肉飯を始めたらしい。魯肉飯ファンとしては食べないわけにはいかない。
いやしかし、この時点ですでに違和感を感じてよかった。中華屋は本土(といってもまだ広いが)の料理を提供しているのであって、台湾料理はやや毛色が違う。日本人がやっている中華屋ならまだしも、中国人(と思しき人)が営む中華屋だ。これが台湾有事の前兆なのだとしたら、慄くほかない。ローカルな侵略と国家レベルの侵略を別物と考えるか否かは立場が分かれるところだろう。デリダは両者の不可分性を主張する。
入店し、迷わず魯肉飯を注文すると、キムチが乗っているのが目につく。いやいや、おかしいでしょう。台湾ですらない。というか、メニューの写真と全然違う。写真では豚肉と煮卵がご飯に乗っているだけなのだが、キムチのほかにネギとチンゲンサイが乗っている(後二者に感じては違和感こそないのだが)。いやまあ、こういう変わり種のトッピングもアリなのかもしれない。多様性を許容しよう。
そう思って、しかしまずはお肉とご飯の、いわばオーソドックスな部分だけをスプーンで掬う。
汁?!
牛丼はしばしばツユでご飯がシャバシャバになっているが、あんなもんじゃない。どちらかというとお茶漬けに近い。そして俺のほぼ唯一と言っていい苦手な食べ物はお茶漬けだ。とはいえ、まだ前向きな気持ちを失っていない。これはシャバシャバしてはいるが、お茶漬けそのものではない。こういう魯肉飯もあるのかもしれない。
恐る恐る口に運ぶ。
薄い。なんだこれは。魯肉飯の香ばしさがまるでない。魯肉飯を水で溶いたみたいな、絶望的な味だ。
ほほう、なるほど、だからキムチを乗せたのかね。
キムチと一緒に食べる。
合わない。まったく合わない。食にはかなり寛容な方だが(先述の通り、お茶漬け以外なら基本何でも美味しく食べる)、こんなにダメなものは久々に食べた。
しかも、中華屋にありがちな、驚くほどの大盛。3人前くらいあるでしょこれ。とはいえ食べ物を残すのには罪悪感があるので、頑張って食べ進める。
美味しくないと内臓が働かないのだろう。すぐにお腹いっぱいになってしまう。食材に罪はないのだが、全然食べられない。諦めて会計を済ませる。
そう、内臓が働かないのだ。食べ終わってからも全然消化せず、ずっと胃がもたれている。夕食どきになってようやくお腹が空き始めた。しかしやはりずっともたれている。
本当に残念な気分になった。全日本魯肉飯協会の設立を心に決め、来週は自分で作ってみようと思った。魯肉飯の思い出を塗り替えるのだ。